ままぱれ

日本語の美しさを味わい、言葉を交わし、生きた言葉を育てよう。

日本語の美しさを味わい、言葉を交わし、生きた言葉を育てよう。

俳句ブームが続いています。
バラエティ番組を見ながら「こんな日本語あるんだ。きれいだな」と感じたことはありませんか?
使わなければ、言葉はどんどん失われていってしまいます。留学生への日本語教育を経て、今は日本文学・コミュニケーションの教育に関わっている先生にお話をうかがってきました。

虫明美喜先生

言葉の背景には文化があり、日本語が持っている様々な質感は、自分たちの中から掘り起こし育てていかなくてはなりません。日本人だからといってわかるものではないと思います。


虫明(むしあけ)  美喜 先生

宮城教育大学卒業後、東北大学大学院文学研究科で日本語教育を学ぶ。韓国などで日本語を教え、帰国後は2001年に東北大学大学院文学研究科助手、2002年から宮城教育大学で日本語教育に携わり、留学生への日本語や日本での生活の指導にあたっている。仙台市出身。

先生の授業・研究について教えてください。

 大学では国文学、特に詩を研究していたのですが、アメリカに行ったことが人生の転機になりました。ニューヨーク州シラキュースにあるル・モインカレッジという小さな大学で、経験もなく手探りで日本語を教えたのが日本語教育に関わるきっかけでした。また、そこから車で1時間ほどのところにあるコーネル大学に東アジア研究専攻があり、その演習に聴講生として2年ほど通いました。日本文学なのでテキストの内容はわかるのですが、議論が白熱してくるとついていくのがやっと。わからないことを必死に理解しようとするのは、たぶん日本に留学してきた学生も同じなので、その時の経験が日本語を教える上で役に立ったと思います。
 宮城教育大学では近代文学と国文学史、小学校の国語教育を担当しています。漱石や芥川から樋口一葉など、近代の作家の作品を学生と読んできました。12年前に宮城教育大学に招かれた理由を自分なりに考え、国語教育の最初の授業で「国語は何を教える教科なの?」という問いかけをしています。学生もよく「美しい日本語」と言いますが、ではどんなことを美しいと思っているのか、具体的に語りなさいと言っています。

日本文学を学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

 小学校の頃、自宅の向かいに図書館があったので、手当たり次第に本を読んでいました。なぜこんなに美しい言葉があるのだろう、この美しさについて勉強したいと子どもの頃から思っていました。東北大学で留学生に日本文学を長く教えてきましたが、日本人だけでなく世界の人たちがこんなにも日本文学に惹きつけられる鍵は、日本語にあるのではないかと思っています。その言語を私たちが味わい、きちんと使って、その魅力を誰かに伝えていかなければ、いずれ死んだ言葉になると思うのです。今はその言葉のやり取りができる学生を育て、教育現場に送り出すことが、私の務めだと思っています。
 文学の世界は静的な言葉の解釈を必要としますが、例えば詩や俳句を作って句会をやったり、学生同士でディスカッションするうちに、動的な人と人との言葉のやり取りが彼らの刺激になり、もっと豊かな言葉を獲得したいと思うきっかけになっていると感じます。勉強だけでなく、日頃の人とのやり取りの中で生きた言葉をできるだけ豊かにしていくことが大切だと思います。
 2025年から大学共通テストの国語は、文学国語と論理国語に分かれます。大学共通テストに関わる先生方も様々なことを考えてそういう選択をされたのだと思いますが、今現在でも教科書に載っている文学作品が少ないのに、ますます詩や短歌に触れる機会が減るかもしれません。それでも、私たちは母語である日本語の美しさや大切さを伝え続ける必要があると思います。

文語文学習のe-Learning教材を作成されているそうですね。

 「BUNGO-bun GO!」という、日本語を母語としない人たちのために開発したウェブサイトです。PCだけでなく、タブレットやスマートフォンでも勉強できます。文語文というのは、要するに古文です。古文を勉強する時に一番難しいのは文法で、このアプリでは語彙や文法の説明、読み方や現代語訳を表示することができ、現在は16の教材が入っています。
 私は共同研究者としてこの開発に関わってきたのですが、日本にいる外国人のお子さんたちも古文で苦労しています。学校の先生や、ボランティアの方たちが、その子たちに古文の指導をする時にこれを使っていただいたり、お子さん自身が自習に使えたりするようになるとうれしいです。

「BUNGO-bun GO!」はこちらから

「演劇的な手法を取り入れたコミュニケーション」にも取り組んでいるとのことですが。

 6年ほど前から東北大学医学部にいる夫と、演劇的手法を取り入れたコミュニケーション教育に取り組んできました。医学部は一人の患者さんにいろいろな人が関わるので、コミュニケーションがとても重要です。昨年「演劇的手法を用いた共感性のあるコミュニティーの醸成による孤立・孤独防止事業」が研究開発プログラムとして採択され、予算が付きました。新型コロナウイルスの影響で、人と人とが会わない時間がもう2年続いています。これが3年続けば、中学や高校の時間はそれに全部覆われてしまい、子どもたちの成長にどんな影響があるのか心配です。人と会ってコミュニケーションを取ることは、これからますます大事になってくると思います。トレーニングのような形で演劇を取り入れ、お互いが共感できるようなコミュニティーを作る、そういう体験は演劇の得意分野なので、これから宮教大でも積極的に実践を重ねていく予定です。
挿絵01

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

 日本の文学を学ぶのに、日本の湿度が作る空気、その空気で見える風景というのがあると思うんです。言葉の背景には文化があり、日本語が持っている様々な質感は、自分たちの中から掘り起こし育てていかなくてはなりません。日本人だからといってわかるものではないと思います。子どもたちには「春の月」と「冬の月」の違いはまだわからないかもしれないけれど、お子さんと一緒に月を見上げてどう感じたか言葉にしたり、誰かと共感する時間が大切ですね。
 子どもたちは、自分が好きなものをどんどん広げていきますので、文学やことばの持つ魅力に気づくきっかけをぜひ作っていただきたいです。読み聞かせをしたり、お子さんと一緒に楽しんでいただけたらいいなと思います。お母さんが楽しんでいる姿は、お子さんに直に伝わるのではないかと思います。
 また、絵本から文字だけの本へのジャンプアップも難しいかと思います。絵本は誰かのイメージとの共感ですが、文字から本の中の世界を自分で立ち上げるのは結構エネルギーが必要です。学校の先生たちも面白い本を紹介したり、子どもたちに探させたりしていますが、ぜひお母さんたちにもそういったことをしていただきたいですね。教科書に載っている作品も大切ですが、教科書とそれ以外の本を行ったり来たりすることが、本を読む力を育ててくれると思います。

掲載年月/2022.03

  

≪ TOPへ戻る

SERIES

絵本といっしょに
ママさんライダー
ぱれまるの部屋
宮城教育大学
子育ての疑問質問
レシピ
ままぱれぽーと
プレゼント