言葉や心の壁を乗り越えて多文化共生社会を生きる子どもたちへ
新学期になったら、我が子のクラスに外国から来たお子さんが。
しかも何とうちのご近所。そんな時「私!英語!話せませんからっ!」と逃げていませんか?
実は英語圏の国の人ではなかったり、簡単な日本語なら大丈夫かもしれません。
子育てしている同じパパやママなら、きっと心は通じます。
お父さんお母さんたちが交流を楽しんで、いろんな国の人と付き合うと面白いよ、日本語でも大丈夫だよという姿勢を見せれば、そういう「寄り添っていく気持ち」が子どもたちにも伝わると思います。
高橋 亜紀子 先生
宮城教育大学卒業後、東北大学大学院文学研究科で日本語教育を学ぶ。韓国などで日本語を教え、帰国後は2001年に東北大学大学院文学研究科助手、2002年から宮城教育大学で日本語教育に携わり、留学生への日本語や日本での生活の指導にあたっている。仙台市出身。
先生の授業・研究について教えてください。
日本語教育が専門で、世界各国からの留学生に日本語を教える授業と、外国人とどのようにコミュニケーションを取ったり日本語を教えたりするかという「日本語教育概論」、なぜ日本に外国人が増えてきているのか、その方々とどう共生していくかを学ぶ「多文化教育入門」などを教えています。今はコロナでできませんが、短期の海外研修プログラムの引率もしています。
「多文化教育入門」は1年生の授業です。学生はこれから外国から来た子どもがいるクラスの担任になる可能性が高いですし、その時に言葉や文化など様々な問題も含めて、子どもだけでなく保護者とどう接するかも考えます。これは学校の問題だけではなく日本社会全体の問題です。将来先生にならなかったとしても、会社で外国人の方と同僚になるかもしれませんし、例えば役所に就職した時に、窓口を担当していたら、外国出身の方が訪ねてくるかもしれません。そういう時代になっているということを考えてほしいと思っています。
宮城教育大学の留学生はどんな方々ですか。
文科省のプログラムで「教員研修留学生」が来ています。国では学校の先生で、宮教大で1年間日本の教育や学校について学びます。また、日本の学校を訪問したり、自国の教育について学生に話したりしていただいています。今は中国、パラグアイ、マレーシア、インド、ブルキナファソ、ジンバブエの先生が来られていますね。協定校との交換留学もあるのですが、コロナの影響で来日できず、すべてオンラインの授業でした。ブラジルと台湾の留学生がいたので、時差を考慮して授業の時間を決めました。
日本語教育に興味を持ったきっかけはなんですか。
「日本語教育」は今なら知っている方も多いと思いますが、私が学生の頃はそうではなく、たまたま読んでいた本で日本語を教える仕事について知りました。大学3年生の時に、交換留学でアメリカに行きました。その大学には世界の80か国ぐらいから留学生が来ていました。大学の日本語クラスで先生のアシスタントをしました。その時、こんなに遠い外国で日本語を熱心に学んでいる人がたくさんいることに感動しました。授業では先生の相手役、授業外では学生の質問に答える仕事をしました。でも、例えば、「へ」と「に」の違いや漢字の成り立ちなど、それまで一度も考えたことがない質問ばかりで、ほとんど何も答えられませんでした。それで日本語教育をきちんと勉強したいと考え、東北大学大学院の日本語教育学のコースに進学しました。
大学院を修了した後は、海外で教えたいと思っていたので、韓国で2年ほど教えました。
「外国につながる子どもたち」のプロジェクトのことを教えてください。
近年、県内のあちこちの学校に外国につながるお子さんがおり、見学に行くうちに「突然そういう子が来たのでどうしていいかわからない」とか「教えられるスタッフがいない」などの問題があることがわかりました。仙台には日本語を教える人が結構いるのですが、車がなければ行けない県内の学校で教えてくれる人はなかなか見つかりませんでした。そこでオンラインで教えられないかと、先進県である愛知県に視察に行ったりしました。コロナ以前はパソコンや通信環境がないということもありましたが、コロナになりオンラインで学べる環境が整ったため、勉強したいと思っている子どもたちに、学校ではなく、直接声をかけて教えたらどうだろうと考えたんです。また、教職課程の学生にとっても外国につながる子どもたちと接する機会は良い経験になるのではないかと思いました。2020年の夏休みに試しにオンラインで勉強を教えてみたところ子どもたちの反応が良かったため、その年の後期の「日本語教育概論」の授業で実施し、春休みからはボランティアの学生とともに実施しています。
オンラインの教室はZoomで実施しています。はじめにみんなが集まり、そのあとで学生と子どもがペアになって勉強します。子どもたちの中には、日本語はある程度できても学校の勉強がよく分からない、日本語を話す練習をしたいなど、子どものニーズや課題に合わせて教えていきます。幼稚園から高校生まで、国籍も本当にまちまちで、むしろ英語を話す国は少数です。
学生さんや子どもたちの反応はいかがでしょうか。
外国につながる子どもも、日本人と変わらない普通の一人の子どもなのだと学生に気づいてほしいと思っていました。そのことに気づいてくれたり、一人の子どもの「わからない」に対してどう教えるかを考えることは、クラス全体への授業を考えることにもつながると気づく学生もいます。でも、やさしい日本語でわかりやすく教えるのはまだまだ難しいようです。外国につながる子どもにとって、学校で1対1で自分が言いたいことをゆっくり聞いてもらう機会を得ることは難しいことですから、小学生ですと楽しいという感想もありますし、学年が上になると将来の悩みを歳が近い大学生と話せていいということもあるようです。
これも学生教育の一環だと思っているので、この経験をした学生が先生になった時に、自分のクラスでなくとも学校に外国につながるお子さんがいたら、自信をもってアドバイスや指導ができるようになってくれればいいなと思っています。
ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。
まず関心を持つことですね。お子さんと同じクラスの子やご近所にいらっしゃる外国出身のお父さんお母さんは日本の教育を受けたことがないので、すべてが新しくわからないことばかりです。みなさん、ちょっとでもいいので、手を差し伸べ、声をかけることから始めてみてください。外国の人だけが日本語や日本の文化を学べばいいというのではなく、私たち日本人も意識を変えていく必要があると思います。言葉が上手く通じないことがあっても、「寄り添っていく気持ち」があるだけでそれは相手に通じます。やさしい日本語で話しかけたり、それでも通じなければ写真を見せたり文字を書いたり、コミュニケーションの方法はいくらでもあります。そしてお父さんお母さんたちが交流を楽しんで、いろんな国の人と付き合うと面白いよ、日本語でも大丈夫だよという姿勢を見せれば、そういう「寄り添っていく気持ち」が子どもたちにも伝わると思います。
掲載年月/2022.05