ままぱれ

“やりたいこと、好きなこと”に取り組む時間が未来の自分に繋がっていく。

“やりたいこと、好きなこと”に取り組む時間が未来の自分に繋がっていく。

虎尾先生が小さい時に描いた絵を見せていただきました。
その絵の裏側には、鉛筆で「昭和39.6.22 裕 満五才八ヶ月 裕いわく~」とお母さんの文字。 そういえば自分の親も絵を取っておいてくれたし、中学校の美術の先生は油絵で紅花を描く作家でもありました。
暮らしのなかにある美術には、自分の歴史や記憶を繋ぐ力があるのかもしれません。

オランダ人は家を建てると必ず絵を買いに行くんです。美術はもっと身近なもので、何か生活感のあるもの…原点のようなものから探してみたらどうだろうかと思います。

虎尾裕先生虎尾 裕先生
東京都三鷹市生まれ。東京藝術大学彫刻科卒業、同大学院美術研究科彫刻専攻を修了。1997年に宮城教育大学に着任、美術教育講座教授として教鞭を執りながら制作を続けている。東京、宮城、岩手のギャラリー等で個展、グループ展を多数開催。

  

1. 先生の授業・作品について教えてください。

 僕の担当は「彫塑(ちょうそ)」という、彫刻・立体造形の実技制作です。ほかにも絵画やデザイン、工芸などを担当している先生たちと、教員を目指す学生たちを教えています。授業では1年生の時に「友人の首」を粘土で造り、2年生で石を彫り、3年生ではモデルさんを見ながら粘土で塑像(そぞう)を造り、さらに木彫(もくちょう)をしています。
 約40年、石の彫刻を発表・展示し、8~9つのシリーズを展開してきました。山を想起させるものが多く、山の稜線や連なりなどの概念を表現しています。ひとえに山といっても、テーマは年々変わってきています。石の種類もいろいろありますし、石を彫ったり、石と関わりつつ立体を追求することで、テーマにもほとんど変わらない部分と変わる部分がでてくるんです。
 僕は大学時代には山岳部に所属し信州の山岳会にも入っていたのですが、ここ20数年やめていた登山を、コロナがきっかけで再開しました。石を彫るには体力も必要ですし、山で岩登りをするなどの身体的な石との関係が体質的に好きなんでしょうね。視界に入ってくる山の景色、水蒸気、雪渓のまだらなディテールなどが、作品に影響しています。昨年11月は「針峰峡谷(しんぽうきょうこく)を行く」、今年3月には「森林限界を超えて行く」というタイトルの個展を開催しました。

挿絵01

  

2. 小さい頃からものづくりが好きだったのですか?

挿絵02

 4~5歳くらいの頃は、トンカチで釘を打つのが好きで、木造の家に釘を打っていたらしいです。家の敷地内に竹林があったので、竹を切って竹馬を作ったりと、何かを作ることは大好きでしたね。その後は絵を描くのが好きになり、さらに体を使って彫刻刀で彫ることが好きになりました。それと自転車も好きだったので、自転車のフレームをやすりで削る職人にも憧れたのですが、最終的に削るものは石になりました。
 今は違うかもしれませんが、僕が通っていたときの東京藝術大学では、最初はノミ研ぎや鉋(かんな)研ぎなど、道具作りを徹底して教わりました。基本的に石ノミは鍛冶仕事で、無垢の鉄から作ります。今は時間がないのでセラミックのノミを使っていますが、宮城教育大学にも神棚と鞴(ふいご)があるので、楔(くさび)づくりを教えています。ものづくりの基本は道具作り。そのスキルを学ぶことがすべてに通じると思っています。
 僕が通っていた小学校の図画工作の先生はいつも油絵の展覧会を開催しており、中学校の美術の先生は水彩画の展覧会、そして高校の美術の先生は日展の会員で、油絵人物画を発表していました。3人とも二足のわらじを履いていて、教員であり、作家でもありました。そのことから多大な影響を受けたと感じています。日本では作家だけで食べていくのはなかなか難しいので、まずは教員になることが多いです。僕のゼミの卒業生はみんな制作を続けています。僕も宮城教育大学に着任する前は非常勤講師だったので学生には言いにくいですが、自分の好きなことをするには非常勤だっていいんじゃないかなと(笑)。
※安全を願って火の神様を祀る神棚のこと

  

3. 子どもたちの情操教育が大切な時代です。

 最近の学校は図画工作や美術の時間がとても少なくなっており、現職の教員もやりたいことが教えられないという危機を感じています。美術で育むものはいわゆる解答がない、思考しながら積み上げていく無限の世界なので、教えるほうも難しい教科です。美術教育を専門に学んできた宮城教育大学の卒業生はそこをステップアップする授業ができるのですが、学校側は美術にあまり時間を取りたくないのが現代の風潮なのかもしれません。
 一方、宮城県美術館では教育普及プログラムを設けています。美術を鑑賞するスペースと、誰でも制作ができるオープンスペースの2つに分け、子どもたちに美術館を巡ってもらう「美術館探検」を提唱したりなど、学校との連携を受け入れています。ほかにも一般的な講座やワークショップや親子を対象にした講座も行っていますよ。

挿絵03

  

4. 大人の世界ではアートは人気です。

 大きく見れば、美術文化はイベントとして充実してきていると思います。アニメも含んでサブカルチャーやポップカルチャーなどは巨大産業ですから。その反面、学校での美術の時間が減っているギャップが気になるところですね。美術はもっと身近なもので、何か生活感のあるもの…原点のようなものから探してみたらどうだろうかと思います。以前オランダで仕事をした時の話ですが、オランダ人は家を建てると必ず絵を買いに行くんです。日本も昔は床の間に掛け軸を飾りましたが、今ではそういう文化が廃れてきているので、オランダの美術の日常性が羨ましいと感じました。
 今は全国的に画廊が減っており、発表の場がなくて若い作家が困っています。仙台には地元作家の作品を取り扱っている「晩翠画廊」もありますが、僕が今年個展を開いた「SARP」という展示スペースの隣に去年オープンしたカフェ「喫茶frame」では、版画を販売しています。お値段的にも版画はとても手を伸ばしやすいので、家に飾る絵としておすすめです。

  

5. ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

 僕が小さい頃に描いた絵を親が全部取っておいてくれたので、大学に持ってきています。裏側に何歳の時の絵だとか、その時に僕が話したことが書いてあります。僕が絵を描くのを、黙って見ていたのだと思うんですよね。アートは漠然とした難しい世界ですが、アニメでも何でもいいですから、好きなものに没頭させてあげる環境が必要なんです。自分を振り返ってみても、親がそれを保証してくれていました。イベントやワークショップに参加するのもいいですが、まずは焦らずゆったり見てあげて、好きなことに食らいつく楽しさを伸ばしてあげてはいかがでしょうか。

  

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