ままぱれ

先人たちが綴り続けてきた数学というひとつの物語を読み解こう。

先人たちが綴り続けてきた数学というひとつの物語を読み解こう。

取材の事前準備で、先生の研究に出てくる「保型形式」や「ユニタリ表現」の解説を読んだのですが、ほんの数行の説明にもさらに用語を調べなくてはならず超難解。
でも、ホワイトボード一面に書かれた数式は、意味はわからないけれど美しいなと感じるのです。そんな数学苦手オーラ全開で「数学者」に会いに行ってきました。

古代エジプトの数学でわかったことや、約2300年前にユークリッドが定義したことが、数学的な事実として今も生きているわけです。何千年もの先人たちの積み重ねが数学には全部あるのです。

  

先生の授業・研究について教えてください。

 大学の数学教育講座は、代数学・解析学・幾何学・数学科教育学があり、私は代数学を教えています。3年生の後期に古典的な代数学の集大成ともいえる「ガロア理論」を学ぶことを目標に、1年生の時に数学独自の基本的な言葉を学び、2年生になると例えば三次方程式や四次方程式の解の公式や、その性質などを調べます。そうして理論や概念を積み上げ、最後にそれらを組み合わせて「ガロア理論」を作る授業です。ゼミでは文献を各自が講読・発表し、ディスカッションしています。自分で本を読んでわからないところを見つけ出し、それを理解する訓練をゼミで行うわけです。
 私の研究は、学会では整数論という分野になります。整数の性質を調べる分野と言えばそれまでなのですが、例えば「素数(1と自分自身以外の約数を持たない自然数)の中には2つの平方数(自然数の2乗)の和で書けるものと書けないものがある。それはどういった素数で、そこにはどういう原理があるのか」とか、「整数の世界だけではそれ以上分解できない素数も、もっとエネルギーを上げて複素数(実数と虚数を組み合わせた数)の世界まで広げて考えれば分解できる(類体論)」とか。話についてきてますか(笑)?

  

難しいです(汗)。そういった理論を考えることが、数学者の研究なのですね?

 そうですね。数学者は常日頃からそうやって考え続けています。なので、私の先輩の娘さんが、小学生の時に父親の仕事について作文を書いた時、ほかのお父さんは「毎朝仕事に行きます」なのに、「うちのお父さんは、いつもうちでぼーっとしています」と書いたそうです。彼は「そうじゃなくて考えているんだけどなぁ」と嘆いていました(笑)。
 「新説が出ると上書きされる」物理学などとは違い、古代エジプトの数学でわかったことや、約2300年前にユークリッドが定義したことなどが、数学的な「事実」として今も生きているわけです。何千年もの先人たちの積み重ねが「そのまま全部ある」のです。「フェルマーの最終定理」はフェルマーの死後330年の1995年に完全に証明されたのですが、その証明には1955年に日本の数学者が提示した予想が大きな役割を果たしました。数学者は自分なりのアイディアを見つけ、追究したり調べたりしているのです。

研究の違い

  

難先生は子どもの頃から理系だったのですか?

レコード 物心ついた時から、親戚の叔母たちから「あなたは変な子どもだった」とよく言われました。レコードに下りた針の動きを飽きずにじっと見ていたり、父が購読していた機械学会の雑誌を眺めていたせいです。科学者になりたいとずっと思っていました。何かを調べたい、理解したいという気持ちが強かったのだと思います。私は小学3年生まで海外にいた帰国子女なのですが、“変な子”だから向こうでも授業をよく聞いていなかったため、帰国した時は「四捨五入」がわかりませんでした。でも、中学の数学のテストでとても良くできた時があって、先生から「お前、できるね」と褒められたのがきっかけだったと思います。その時にとても易しい微分・積分の本に出合い、読んでみるとすらすらとわかり、わかるともっと勉強したくなるわけです。自ら勉強して、ほかの人が知らないことを知るのはいいなと思って、それが今に至っています。

  

「ビューティフル・マインド」や「イミテーション・ゲーム」など、実在した天才数学者を主人公とした映画を観ると、数学者の日常は一般の人とはちょっと違うような気がするのですが。

定規 どうですかね。私なんか普通でしょう?うちの奥さんは文系なのですが、科学雑誌「Newton」や「日経サイエンス」などをイラストがきれいだと読むのが大好きだし、一緒にNHKの「笑わない数学」を見ています。内容はわからなくても興味はあるから、私が言ったことにも上手く返してくれますね。ただ学会や大学となると、やはりちょっと特殊な方々が結構います(笑)。映画はドラマチックな人を取り上げるので、世の中には数学者に対する偏見があると思います。2016年に公開された「奇蹟がくれた数式」は、インドの数学者ラマヌジャンの伝記映画ですが、あれは比較的数学者の通常の姿かなと思いますね。

  

これからやってみたいことはありますか?

 今は退職して特任教授になっていますが、いずれは完全に職から離れるので、そうしたら結果を出すことに追われず、少し落ち着いて勉強したいと思います。物事の根源に興味があって、物理学の量子力学や相対性理論も基本的に数学なので、それをきちんと勉強したいですね。ブラックホールの原理なども、人から言われてこうだと思うのではなく、自分でそれを根底まで理解して、この世界の存在は根本的にこうなんだというところまで理解して死にたいというのが、これからやりたいことです。

  

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

笑顔 算数や数学を好きになるか嫌いになるかは、ちょっとしたきっかけだと思います。そういう面白いと思うきっかけに出合った時には褒めてあげてください。それと、親御さんが数学が苦手だと、お子さんにも影響が及んでしまうので、数学嫌いオーラを出さないようにするとか(笑)。
 何がきっかけになるかはわかりませんが、好き嫌いは別として、わからないということはたぶんないと思います。算数も数学も単純に積み重ねなので、前のことがわからなかったら次のことはわかりませんが、わかれば間違いなく次に進めます。遡ってみて「わかったね」という経験をすれば苦手意識はなくなるだろうし、ほかの勉強でも「わかるところまで戻ればいいんだ」という気づきに繋がると思います。

  


  

先生髙瀬 幸一 先生
東京工業大学理学部数学科卒業、同大理学研究科数学コースを修了、理学博士。1990年より宮城教育大学で教鞭を執り、現在は特任教授。専門は整数論、保型形式論、表現論。東京都出身。

  

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