ままぱれ

自分の根っこにある言葉を大切にしながら、世界の言語を楽しもう。

自分の根っこにある言葉を大切にしながら、世界の言語を楽しもう。

コロナ禍や円安もあって海外がなんとなく疎遠になり、日本人の英語熱も以前ほど感じない今日この頃。
でも、お隣りが外国から来た人だということも増えてくるかもしれない日本の将来、英語とどう付き合っていけばいいでしょうか。
「文法」の研究をしている先生にお話をお聞きしました。

戸塚将先生

最近は生成系AIもあり、今後はある程度機械で足りることになると思いますが、だからこそ、翻訳された英語がきちんとしたものになっているかを判断できる能力が大事になってくるでしょうね。


戸塚  将 先生

仙台市出身。東北大学文学部人文社会学科卒業、東北大学大学院 文学研究科博士後期課程修了後、旭川医科大学医学部で教鞭を執る。2023年4月から宮城教育大学 大学院教育学研究科 専門職学位課程 高度教職実践専攻(教職大学院)准教授。専門は理論言語学。

先生の授業・研究について教えてください。

挿絵01

 学部の授業では、英語の先生になるために必要な英語の知識を扱う授業を担当しています。いわゆる英語学概論と言われる、音に関する音声学や音韻論、単語の作り方の形態論などになります。私の専門は理論言語学の中でも「生成文法」と言われる分野です。これは、日本では政治的な発言で知られているアメリカの哲学者であり言語学者でもあるノーム・チョムスキーが打ち出した言語理論で、「人間の言語には共通の文法がある」というものです。日本人の子どもでも、生まれ育った場所が海外であれば、その国の言葉を第一言語、いわゆる母語として獲得します。ではなぜそのように言語を獲得できるのか、その一番本質的な部分を探ろうというのが、「生成文法」の主たるところです。それを突き詰めれば最終的には人間とはどういうものか、その本質的なところに繋がります。

難しいですね。なぜそういった理論に興味を持ったのでしょうか。

高校時代、大学受験の勉強では漠然と問題を解いて問題集の解答と解説を見ているだけでしたが、予備校の英語の先生がそれをもう少し嚙み砕いて、英語の構造を説明してくれた時に、とても腑に落ちて面白いと感じました。その先生が生成文法の話もしてくれて、ちょうど志望校に生成文法を研究している研究室があったので、この研究を始めました。
挿絵02 日頃はよく論文を読んでいます。また、研究の専門書以外でも英語のデータなどを見て、面白い形をしている文を分析しています。文法の解説書ではNGとされているものを、なぜネイティブの人たちはOKとして使っているのかなどを探っています。日本でも以前はNGだった「ら」抜き言葉が今は普通に使われているように、やはり言語は日々変化していくものです。教員になる学生たちを教えていくなかで、現代英語などと英語教育の関係も出てくるため、SNSなどで使われる英語の変化を観察することも、研究の中心になっています。
 ここに『World Englishes入門』という本がありますが、英語が“-es”と複数形になっています。最近では第二言語や公用語としてインドや東南アジアの国でも英語が使われるようになり、そこで使われている英語は普通の英語とはちょっと振る舞いが違うため、世界の言語の特徴やルールも私たちの研究対象になっています。

最近はX(旧twitter)で「ラテン語さん」という語学系のアカウントが人気です。

 その方の本は私も読みましたし、ラジオも聞きましたが、すごく面白いですね。また、最近は「ゆる言語学ラジオ」というYouTubeチャンネルがとても人気で、それで言語学に興味を持つ人が多くなっているようです。また、慶應義塾大学で音声学を専門にしている川原繁人先生が俳人の俵万智さんやラッパーと対談したり、一般向けの音声学の本を出版されていて、私も参考にしています。私の研究対象は英語だけでなく日本語もなので、“言葉”について色々考えることは好きですね。  同じく慶應義塾大学の大津由紀雄名誉教授が、「『ことばへの気づき』に根ざした言語教育の構想」を唱えています。子どもが言語を学ぶ時に、自分の母語に対してきちんとした意識を持つことで、母語と英語を比較して英語の特徴や言い回しに気づき、子どもの考え方の成長に繋がるというものです。私もこれまでは英語が自分の研究対象でしたが、宮城教育大学に赴任し学生に教えるようになってからは、日本語と英語がどう違うのかということもより意識するようになりました。

日本人の英語力が低下しているという調査結果があるようですが。

 中学校・高校のカリキュラムが変わったため、私たちが学生だった頃に比べて「話す」「聞く」に関しては一通りできている子が増えている印象がありますが、その反面、長文などをきちんと「読む」力は落ちてきているように感じます。英語力が低下しているのは、今のところ日本の大半の国民が英語を使わなくてもいいという状況が大きいのかと。最近は生成系AIもあり、今後はある程度機械で足りることになると思いますが、だからこそ、翻訳された英語がきちんとしたものになっているかを判断できる能力が大事になってくるでしょうね。
 先日も恩師からプレッシャーをかけられた(笑)のですが、宮城教育大学で教える側の責任として、先生になる学生たちに知っておいてほしいことをきちんと伝えなければと思っています。最近は実用英語が重視されがちですが、英語圏の文学作品を知っているかどうかで英文や日常会話の理解の深さが変わってくることもあります。そういった教養の部分も踏まえて教えていければいいですね。

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

 今では小学3年生から英語が学校のカリキュラムに入っていますが、中学校に入学する時点ですでに半分くらいの生徒が英語が嫌いになっているというアンケート結果があります。学校以外で英語を学んでいる子は小学校の授業でも先生と上手に会話しますが、学ぶ機会がなかった子たちはベースがまったくない状態から学習するため、すでに会話できる子たちとの差を感じ、面白くないと感じたりするようです。小さい頃のほうが認知能力や音の感覚が優れているので、子どもの頃から正しい音や文章に触れさせたほうがいいと思いますし、お子さんが楽しんでいるのなら英語塾などで習わせるのもいいかと。ですが、英語以外で好きなことがあるのなら、そちらを学ぶほうがお子さんにとっては幸せだとも思います。ほんのちょっとしたきっかけで嫌になるものなので、とにかく嫌いにさせないよう気をつけてあげるのが一番ですね。

挿絵03

掲載年月/2024.07

  

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