ままぱれ

自分の世界を広げて、地域や社会と繋がる「学びの意義」を見つけよう。

自分の世界を広げて、地域や社会と繋がる「学びの意義」を見つけよう。

子どもの頃に誰もが思う
「こんなことを勉強して、何の役に立つの?」
本来は将来の自分の仕事や社会のための「学び」なのに、いつの間にか入試や試験がゴールになっていませんか?
そんな現代の教育の在りかたを研究している先生にお話をうかがってきました。

山田美都雄先生

「学び」が入試だけでなく、その後の学校生活や、卒業後の社会生活でも地続きで活かせるよう意識してください。入試を通過した後もしっかりと「自分の学び」ができるように、広い視野を持ち、自分の世界を広げ、学ぶ意義を見いだしてほしいですね。


山田  美都雄(みつお) 先生

岐阜県多治見市出身。琉球大学法文学部卒業。東京学芸大学教育学研究科修了、東京大学教育学研究科単位取得退学、琉球大学で教鞭を執る。2020年4月より宮城教育大学アドミッションオフィスに着任。小学1年生と小学4年生の女の子のパパ。

ご専門の「教育社会学」について教えてください。


  私自身が高校生の時に受験に悩まされた人間で、当時「なぜこんなことを勉強しなければならないのだろう」と疑問を抱いていたことがきっかけで、学校教育や教育全体を分析し、教育をどう変えていけばいいのか考えたくなり、教育社会学を専攻しました。
 最も関心のあるテーマは「学習する意義」。例えば文系の高校生にとって数学を学ぶ理由としてよく言われるのは「入試に必要だから」だと思います。逆に数学のほうが面白いという理系の子もいますが、どちらにせよ理由は「入試のため」か「面白いから」という個人的なものです。ですが学校教育の内容は「社会的に大切だから学習指導要領に定められている」ものです。本来、学校での学びは、「将来の自分の職業や地域活動、政治参加などに繋がる、社会を豊かにする素材であるはず」です。なのに、その側面が抜け落ちているため、入試などの形式的なことのためにしか学びの意義が見いだされていないのが日本の教育の現状です。それが根幹的な問題なのではないかと思います。

学ぶ意義への疑問は、親世代も子どもの頃に思ったことですね。


 今考えているのは、学びを社会に開いていく大切さについてです。「その学びが何に繋がるのか」という疑問は、社会に対する想像力を膨らませないと解決しないと思います。例えば、高等専門学校(高専)に進学する子は、理系の職業に就いている親御さんのもとで育った子が多い印象です。つまり、これまでの生育環境から理系的な領域になにかしらの地盤ができているので、自分の学びに対して意義付けできるのです。そういう地盤を幼少期から作っていく必要があるのではないかと思います。学校で習う教科にはすべてにそれぞれの地盤がありますが、学校ではその地盤を掘り下げず、抽出された一部の知識だけを学んでいるため、学びに意義を見いだしづらくなっています。「大人にならないとわからない」という方もいますが、子どもでも自分の中の世界を広げていけるし、また、私たち大人が子どもにきちんと伝わる方法を探究していくことが大切なのだと感じています。
 今は他の先生方と一緒に、宮城教育大学附属中学校の授業で、国語の説明文を「実社会での想像力を膨らませながらテキストを読む」研究をしています。「なぜ筆者はこれを疑問に思ったのだろうか」「そう考えた時、社会はどう変わるのだろうか」と生徒に問いかけることにより、想像力を膨らませ、社会的な感性や思考力を培う授業に取り組んでいます。

例01

琉球大学では地域に関わる授業も担当されていました。


挿絵

 琉球大学で教えていた時は、地域貢献事業として「現代沖縄地域論」というオムニバス形式の授業の立ち上げに関わりました。沖縄県は非常に豊かな文化があるので、ネタには困らなかったですね。毎回違う講師を授業にお呼びして、沖縄の政治、戦争、食や自然環境、言語などのお話を伺い、ディスカッションする授業を行っていました。沖縄の土地で生まれ育った子でも、そこで起きた出来事や文化をよく知らない子もいるのでいい機会だったと思います。
 また、琉球大学では15年くらい前から「知のふるさと納税」という離島支援プロジェクトも実施しています。離島出身の学生たちを各々の地元に派遣してその地域の子どもたちと交流させ、大学がどんなところなのか子どもたちや保護者の方々に情報を伝える取り組みです。このふたつの事業のキーワードは、「地域の課題を人任せにせず、自分の問題として捉えられるようになること」です。それができるようになれば学生たちの「学びの意義付け」にも繋がっていきます。
 宮城教育大学でも、今年から「地域関連科目」が発足されました。特に初等教育専攻の学校推薦型選抜の「宮城県内定着枠入試」(宮城県内の特定の地域で教員に就くことを強く希望する者を対象とした入試枠)と、芸術体育・生活系の総合型選抜の「地域定着枠入試」(宮城県外で教員に就くことを強く希望する者を対象とした入試枠)による入学者に推奨されている科目です。地域に入り様々な取り組みに関わることで、その地域に対する理解度が高まります。それに、この取り組みを通し自分の出身地と異なる地域について知ると、自分が生まれ育った地域も相対化して考えられるようになります。このようにして複数の拠点を持てると、それが学生の強みにもなります。

先生の趣味はサッカー観戦とのことですが。


 私はJリーグが誕生した頃に中学校でサッカーを始めたのですが、当時顧問の先生に「なんでそこにパスを出すんだ!」とひどく怒られたことがありました。パスひとつ、走りこむ場所ひとつにも、「このほうが効果的だ」という理由(意味付け)があるのなら、頭ごなしに「お前は違う!」と言うのではなく、その理由を説明してほしいと思います。もちろん自分で考えることは大切ですが、指導者側も「こういうふうに考えてみたら?」と、考えるヒントを上手く出せる力が必要ですね。
 今のサッカーではイングランド・プレミアリーグのリヴァプールFCに注目して観戦しています。最近退任しましたが、ユルゲン・クロップ監督は絶対選手を否定せず、とても肯定的なメッセージを発する監督で好ましく感じました。

例02

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。


 我が家も小学生の娘がふたりいるので、私にとっても入試は否応なく悩まされる問題となります。そこでもやはり大切にしたいのは「入試に支配されないこと」。何のために学ぶのかわからなければ、お子さん自身が苦しくなってしまいます。だから「私はこういうことをしたい、考えたい。だからこれを学ぶんだ」と思える環境が大切ではないでしょうか。そのためにも、お子さんの世界を広げていけるような社会体験に親御さんも一緒に参加し、その体験について親子で意見交換すれば、様々な考え方があると学べるようになるかと思います。
 入試は人生の中の一片です。「学び」が入試だけでなく、その後の学校生活や、卒業後の社会生活でも地続きで活かせるよう意識してください。入試を通過した後もしっかりと「自分の学び」ができるように、広い視野を持ち、自分の世界を広げ、学ぶ意義を見いだしてほしいですね。

掲載年月/2024.09

  

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