ままぱれ

子どもたちの尊厳と教師の労働環境をみんなで守っていくために

「教科書裁判」という言葉を久しぶりに聞きました。
なんだか学習指導要領も、学力テストや教科書も、そう決められているのだから当たり前と思っていませんか?
子どもたちの権利や先生方の労働環境を、法律や教育制度から研究している先生にお話をお聞きしました。

ご専門の教育法学や教育行財政はどんな学問なのでしょうか。

 教育に関する裁判が数多く起きた1970年頃に成立した、比較的新しい学問です。子どもたちの権利や先生方の労働条件の保障のほか、教科書検定や学力テストなど政治が教育に不当に介入しないよう、先生方と子どもたちの権利を守るため、そういった運動と研究を一緒に行ってきた学問です。
私も小中学校の教員を志した時期がありましたが、教育実習で学校現場の大変さを目の当たりにし、特に困難を抱えている子に1対1で関わりたくなりました。「学級経営なのだから全体を見なければいけない」と言われ、私にはそれは無理だと思い、教員は諦めて進路を考えるために修士課程に進みました。その時の指導教官から「研究というのは、世の中を良くするためにやるもの」と言われて純粋にすごいと思い、私も本気で研究の道に進むことにしました。
大学院では特に教育行財政史の研究をしていました。戦後日本がGHQの占領下にあった時期の教育行財政改革は、元をたどると1920年代のアメリカで行われていた考え方で、それは一人ひとりの人間としての成長を保障するため、学用品まで含めてすべて無償にしようとする福祉国家的な考え方でした。その教育行財政の仕組みがどのようなものだったのかを、歴史の手法を用いて今も研究しています。

宮城教育大学での授業はどのような内容ですか?

 選択科目で「教育現場と法」という講義を担当しています。実際の教育現場で起きている問題の背後にはどういった法律があるのか、どういった教育制度が関わっているかを話しています。子どもの権利保障や教員の労働条件の問題、教科書問題といったことは、学生たちが教員になって現場に出れば、自分に関わってくる問題ばかりです。愛と希望を持って教員を志す学生が多いのですが、それだけではすぐに心折れて休職してしまうので、自分の身を守る武器として知識を持って卒業してほしいと思っています。講義でも「つらいことはつらいと、おかしいことはおかしいと言っていいし、要求や批判もしていい」と伝えているのですが、先生方の世界ではそれがなかなか難しいようです。br>  最近、教員の働き方改革のために「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が改正されましたが、教えなければならない内容が多過ぎてなかなか難しいものがあります。また中堅の先生方が少なく橋渡し役がいないため、ベテラン層と若手層がお互いに分かり合えないといった問題もあるようです。

教育現場で特に問題だと感じていることは。

 子どもたちの遊ぶ時間がないということが、たぶん一番大きな問題ではないかと思います。仙台の街なかにある小学校の子どもたちは、塾と習い事の掛け持ちという子も多く、いつ遊んでいるのか聞いたら「遊ぶ時間なんてないよ」「行きたくないよ。疲れちゃった」と。小学校1年生ですよ。それに伴って睡眠時間も少なく、集中力もなくて、人間としての成長発達が保障されなくなっていることが問題だと個人的に思っています。高校卒業まで塾に通って、晴れて大学に入っても、何をすればいいかわからないし、言われたことしかできません。自分で問題を解決できず、批判的に物事を考えることもありません。子ども時代にしっかり遊んで、そこから生きていくための様々な知恵や力を身に付けることが大切です。

今年4月に育休から復帰されたそうですが。

 夫と4歳の息子、1歳の娘と暮らしています。私は裁量労働制なので5時には帰って二人を保育園にお迎えに行き、帰ったらご飯を作って、お風呂に入れて、寝かすみたいな感じです。「ままぱれ」の子育ての疑問・質問コーナーも、わかる~と思いながら読んでいます(笑)。読者の皆さんと悩みは同じですね。寝るのは9時、遅いと10時くらいになってしまいます。息子はどうしてもパパママと遊びたくて、眠いけど寝たくなくて、だから機嫌が悪くなって。眠気に抗いながら「遊ぶのー!」と怒っています(笑)。
 週末になるとどこに遊びに行くかが大問題で、うちはもっぱら「のびすく」に行っています。出張がある時は、ありがたいことに、夫の両親が仙台まで来てくれるので、子育てと仕事の両立ができています。いつも「ままぱれ」では宮教の先生方がアドバイスを求められていますが、本当に一緒に頑張っていきましょうという気持ちですし、むしろ私もアドバイスがほしいです(笑)。これから大変な時代を生きていくわけですが、子どもたちには何か好きなことを見つけて、「生きるって楽しいな」と思って大きくなってほしいですね。

これからやってみたいことを教えてください。

 ようやく仕事に復帰したので、まずゼミの学生たちには、自分の頭で考え批判的な思考を持って社会に出て行けるよう、様々な本に触れたり、研究会や学会などに連れて行きたいと思っています。私の研究としては、恩師が言ったように世の中に良い影響を与えることをモチベーションにしながら、もう少し寛容な世の中に、子どもに寛容な人が増える世の中になるような研究ができればと考えています。
 現代はうちのような核家族が多いので、教育行財政の問題としては学校給食などの無償化や現金給付などの金銭的な保障のほかに、人のサポートがもっと必要です。昔なら近くにいる親戚や近所の方々が子育てを助けてくれましたが、特に都市部ではそういったネットワークになかなか繋がれません。そういった仕組み作りにはお金が必要になってくるので、補助金などの財政の仕組みを頭に入れつつ、教育の権利や必要性、子育てをサポートしてくれるネットワークの保障をどう説得性を持って合意形成していくか、考えていきたいと思います。

これから大変な時代を生きていくわけですが、子どもたちには何か好きなことを見つけて、「生きるって楽しいな」と思って大きくなってほしいですね。

宮澤 孝子 先生
新潟県出身。新潟大学大学院教育学研究科で修士、東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科で博士号取得。2019年から東北生活文化大学で教鞭を執り、2022年より宮城教育大学専門職学位課程(教職大学院准教授)。4歳の男の子と1歳の女の子のママ。

2023年に出版した博士論文(左)。2025年9月に発売された最新刊(右)では「第4章 なぜ教育にお金がまわらないのか?」を執筆

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