ままぱれ

震災を知らない子どもたちに、命を守る知恵を伝え継ぐ

震災を知らない子どもたちに、命を守る知恵を伝え継ぐ

震災直後から、先生の卵たちは被災地に教育支援に通いました。
教育の復興支援が落ち着くと、次はこの経験をどう全国へ、未来へ伝え継いでいくか動き出しました。
「教育こそが社会の防災意識を養う力や可能性を秘めている」と語る先生に、宮城教育大学の取り組みを伺ってきました。

2年ぶりの取材です。
最近の活動について教えてください。

 前回取材時に所属していた「防災教育未来づくり総合研究センター」が、「防災教育研修機構」になりました。別名を「311いのちを守る教育研修機構」と言います。旧センターの機能をさらに拡充して、東日本大震災の経験を宮城県だけでなく全国の学校の先生方や学生たちに伝えていく拠点になりました。

 南海トラフ地震や首都直下型地震が警戒されていますが、そういった地域の現職教員に来ていただき、岩手県釜石市から仙台までを辿る3泊4日の実地研修を実施しています。震災の悲惨さを伝える景色は、現在ではかなり減っていますが、被災した学校などの現場を歩き、当時の校長先生や、成人して伝承活動に取り組んでいる当時の中学生たちから直接話を聞くと、感じることはたくさんあります。それらの知見を持ち帰って、自分の地域や学校でどういう防災の取り組みができるのか考えてもらいます。研修機構と教職大学院で、地震・津波の経験を伝え繋ぎ、「命を守る」ことを指導する教員の防災力の向上に取り組んできた2年間でした。

防災イメージ

「いのちを守る 教員のための防災教育ブックレット〔風水害編〕」について教えてください。

 大学を卒業して進学した若い院生と、教職経験を積んで、改めて指導力を向上させたいと学びに来る現職教員の院生が一緒に学んでいます。先生方は勤務する学校に所属しながら1年目は大学で学び、2年目は勤務校で働きながら研究・実践の成果をまとめるのが一般的です。2019年度にその成果を、「いのちを守る 教員のための防災教育ブックレット〔風水害編〕」として発行しました。ここでは仙台市立田子小学校と岩沼市立玉浦中学校の先生が教職大学院で学び、勤務する学校で実践した風水害に関する授業の記録がまとめられています。

教員のための防災教育ブックレット

 防災教育研修機構発足の際、宮城教育大学と国土交通省東北地方整備局が協定を結び、その共同研究の一環としてこのブックレットを作成しました。最近は特に水害が顕著になってきており、国交省が整備してきたハード部分の基準を上回る降水量になっています。ハード対策は更新していきますが、市民ひとりひとりがいざという時に適切な避難の判断をしていただく必要があるので、その教育・啓発を重視しているのです。

授業づくりはどのようにされたのですか?

 このブックレットの授業づくりは、現職教員の院生が中心になり、若い院生たちと話し合いや振り返りを行って作り上げました。このお二人は、それぞれ道徳教育といじめ問題を大学院で研究しているのですが、防災の授業を受けるうちに、取り組んでみようということになったんです。大学院の授業では、東北地方整備局の専門家にも講義をしてもらいました。これから教員を目指す院生たちにとっても、現場経験のある教員の授業づくりの過程に参加したことは、大きな学びだったと思います。昨年は震災当時石巻で中学生だった学生が、防災を学びたいと大学院に来ました。その当時同じ中学校に勤務していた先生も来て、ふたりは同級生として学んでいます。様々な世代、様々な経験をした方々が集まっているのもうちの大学院の特徴かもしれませんね。
 小・中学校に「防災」という科目はありませんが、防災は様々な要素を含んでいます。ブックレットに掲載されているのは社会科と理科の授業ですが、それぞれの専門教科に防災の要素を取り入れて授業づくりをできるかが、良い防災教育の成功のカギになります。今は問いを立てて子どもたちにそれを考えさせる探求型が重視されますが、まさに防災の答えはひとつではありません。いざという時に様々な経験や知識を動員して、かなり短い時間で命を守る判断を迫られる場合もあります。だから判断力や思考力が求められるのです。

研究や伝承にコロナの影響はありましたか?

 昨年夏の実地研修は人数を絞り、徹底的な感染対策をして実施しましたが、集団でどこかに出向くには制約があります。一方でデジタルやヴァーチャルで様々な現場の防災対策を理解する環境が整ってきたので、機構と東北地方整備局との共同研究としてそのコンテンツづくりに取り組んでいます。
 震災から10年が経ち、記憶が希薄だったり、震災後に生まれた子どもたちも増えてきています。先生たちは震災を伝え継ぐ重要性を認識されており、語り部を学校に招いたり、各地の震災遺構を訪ねる震災学習も進んでいます。修学旅行も、これまで海外に行っていた学校の子どもたちが、かなり東北の被災地を訪ねてくれているようです。2年前にうちの学生たちが作成した、震災学習で震災遺構・仙台市立荒浜小学校を見学する際の手引書とワークシートは今も活用されているようです。震災を伝え継ぐ施設などで、上手く活用していただけば、充実した震災学習になると思います。

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

 震災の経験は、親御さんにとっても様々でしょうから、向き合い方はそれぞれです。どんなきっかけでお子さんと震災について話すかわかりませんが、学校では震災を伝え継ぐ授業が始まっています。授業を受けたお子さんが「今日、学校でこんな話をしたんだよ」と言ってきたら、それを機にご自身がどうだったのかということを話してみるというのもいいかもしれません。
 今年の2月13日の大地震がきっかけになった人もいるようです。10年経ってもなかなか話せない方もいると思います。私はアメリカにいた時、日系アメリカ人の伝承に関わる仕事をしていました。80~90代の日系二世の方々は、戦時中の収容所の経験は語りたくなかったのですが、2001年にアメリカ同時多発テロ事件があり、イスラム教徒に対して差別や偏見が向けられ世の中がきな臭くなって来た時、そして残りの人生を考えて何十年も経ってから語り始めた人もいました。
 仙台は転勤して来られる方も多いですから、お子さんの震災学習をきっかけにして、一緒に震災について考え、ご自宅の備えを考えるのもいいかもしれませんね。

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